ちいさなほし
初めて地球が丸いって知った時、頑張って歩き続けてさえいれば余所の国にだって行けるという事にわくわくした。
日曜日両親と散歩。
ヘリコプターのある公園。
水溜まりに沈むハガキににじむ文字。
夏じゃないのに日ざしが強くてうっすら浮かぶ汗が風に吹かれて涼しい。
同じ石をにぎって歩く。ここの石をとても遠くに持って行って置いてこよう。そしたら離ればなれになっちゃって、可哀相かなあ。
歩いて歩いておうちに着いた時、「今日は地球一周したかな」と母にきいた。
本当に頑張って歩いたから。
今までで一番。
いもうと
大切な猫の夢をみた
久しぶりに会ったその子は私が顔を近付けると勢い良くそしてやさしく頬に脇腹を押しつける
いつもは可愛がりすぎる私を疎ましげに眺め伸ばした指先もスルリと躱して行ってしまうのに
体温がシマシマの毛から私の頬にうつるまでいつまでも
私を真ん丸な真っ黒いぬれた瞳で見上げる
「どこいってたの?」「やっと帰ってきたんだよね?」
私のこと、枕か鼠の玩具を振り回すヤツとしか思ってないクセに
でももうそれでどこにも行きたくなくなった
隣で温かいお日様のニオイのする背中を撫でていたかった
きみは何を考えていたの…?
色んなカタチ
やっと雪が降った!
嬉しくて黒い手袋に結晶を集めながら歩いた。
小さい時大雪が降った。
いつも歩く道は雪が除けられて細い通路になっていた。
除けられた雪が私よりも高く積まれていたのを「なんて沢山雪が降ったのだ!」と驚き、大人になるまで大雪を体験したとずっと思い込んでいた。
よく考えたらあれは千葉だよ。
思い込みが昔から激しい。
時間は果てしなくあり
冬枯れの樹を見てると木は地上にも根を張っているように見える。
樹は地下では水と土を吸い地上では空気と太陽を呼吸している。
そう考えるとだんだん逆さまに頭を地面に突っ込んでいるみたいに見えてくる。
私はもぐらだ。
★ ★ ★
小さい時、大きな鏡を顎の下に据えそれを覗き込みながら歩くのが大好きだった。
鏡は天井を映し込んでいる。それを眼下に見ながら歩くから天井が床になるのだ。
照明を避け梁を跨ぐ。急な段差にひやりとする。逆に何にもない所でばりっと何かを踏んだりする(そうするとこの遊びはもうオシマイだ。母が怖い目線が飛んでくるから)。
外に出ようものならもうそこは真っ青な底無し。
脚がすくんでもう一歩も動けない。
どうしよう?
随分時間が経ってから思い切って一歩踏み出してみる。
落ちるはずなのに脚は確実に何かを踏んでいる。それはそこに見える不確かな雲の切れ端なんかじゃない、ちゃんとした硬い平らなもの。
いつ落ちても不思議じゃない。
そうして、どきどきに耐えられるまでそこにいる。